忍び寄る「虚弱」と低出力モードの身体
大人になって少し運動不足になった、という程度の話ではありません。
子供の頃からほとんど運動らしい運動をしてこなかった。大人になってからも身体を積極的に使う習慣がない。
その結果、社会生活のなかで、普通の人なら普通にこなしていることが、だんだん負担になっていく。
・出かけるだけで疲れる。
・人と会った翌日は動けない。
・忙しい予定が続くと、その後しばらく身体が重い。
気づけば生活圏は家の近所だけになり、行動範囲がどんどん狭くなる。そんな話を、私はウェルネスケア従事者という立場上、数えきれないほど聞いてきました。
もちろん、実際にどれほど多いのかはわかりません。私がそういう相談を受ける立場だから、余計に多く感じているだけかもしれない。正確な統計を持っているわけではありません。
ただ、少なくとも「昔より明らかに増えている感覚」はあります。
3年ほど前、漢方養生指導士の資格講座を受講していた時のことです。講師が、こんな話をしていました。
「今、漢方相談が非常に増えています。中心は30代後半〜50代前後の女性です。そのほとんどが体型に関する相談です」
ここまでは、特に驚きませんでした。
この年代は、出産経験の有無に関係なく、年齢による身体変化が一気に出やすい時期です。体型への関心が高まるのは、ごく自然なことだと思います。
ですが、その後に続いた言葉が印象的だったのです。
「虚弱から来ています」
つまり、単なる加齢ではなく、“虚弱化”によって身体が急激に変化している、という話でした。
講座を学ぶうちに、私はこの「虚弱」という言葉に、ある共通点を感じるようになりました。
それが、いわば――
『省エネ体質』です。
身体を強く育てないまま大人になった。あるいは、大人になってから身体を弱らせる生活を長く続けた。その結果、低出力モードのまま生きることが常態化してしまった身体。私はこれを、“省エネ体質の慢性化”のようなものだと思っています。
“歩かない生活”の蓄積と現代型省エネ体質
たとえば、
・学生時代は文化部
・趣味はインドア
・通勤は完全に車移動
・外出といえばコンビニ程度
そういう生活を長く続けている人のなかに、「身体を強く育てなかったタイプ」をよく見かけます。
昭島より西側は、車がないと不便です。一家に一台どころか、父親用、母親用、子供用と、一人一台が当たり前の家庭も珍しくありません。私はマンション住まいですが、「駐車場が一家一台分しかないのは不便」という話を本当によく聞きます。
つまり、それくらい“歩かない生活”が普通なのです。
だから40代以降になると、明らかに身体能力が落ちている人を見かけることがあります。ただ、これは地域性もあるので、まだわかりやすい話です。
本当に深刻なのは、もともと元気だった人のほうです。
忙しさ
ストレス
責任
睡眠不足
そういうものを何年も積み重ねた結果、身体機能が少しずつ低下していく。
そして、
「なんとなく調子が悪い」
という状態が、いつの間にか“普通”になっていく。
さらに進むと、
「だるい」
「動きづらい」
「外出後に回復しない」
という状態になる。
忙しい予定に無理して合わせると、翌日どころか数日動けない。これこそ、現代型の省エネ体質化だと思うのです。
男性なら、それでもまだ成立する場合があります。なぜなら、多くの男性は50代前後になると、「老後はゆっくりしたい」と言い始めるからです。
「退職したら妻と車で全国を回りたい」そこまでは言う。
でも、その後はだいたい、
・昔の映画を観たい
・家でのんびりしたい
・ブログでも書こうかな
・孫と遊びたい
そんな言葉が続きます。
要するに、“あまり遠くへ行かない老後”を望む人が多いのです。
50代、再び動き出す女性の人生と「悲鳴を上げる身体」
ところが、女性は違います。これは本当に不思議なくらい違う。
女性の人生には、ある時期から再び「人との繋がり」が戻ってきます。
子供が中学、高校へ進み、少し手が離れる頃。昔の友人やママ友から、また声がかかり始める。50代になると、さらにその流れが強くなる。子供が独立し始め、自分自身の人生が再び動き出す時期だからです。
既婚か独身か。正社員か非正規か。意外なほど、この流れにはあまり関係がありません。
その時、長年送ってきた生活習慣が、一気に表面化するのです。
忙しくても身体を保ってきた人は、そのまま自然に次の人生ステージへ移行していく。ですが、省エネ体質化していた人は、そこで一気に苦しくなります。
無理して予定に合わせれば、身体が悲鳴を上げ、しかも50代に入れば、女性特有の身体変化とも重なってきます。
すると、さらに身体が重くなる。
動きづらくなる。
家にいる時間が増える。
これが、「虚弱」の正体なのだと思います。そして、その身体変化と体型変化が重なることで、多くの女性が悲鳴を上げる。だから今、漢方相談が増えているというのです。
実際、ここ数年で、確かに漢方相談専門店は一気に増えました。デパート上階にも、女性が入りやすそうな相談窓口ができ、ドラッグストアにも、本格的な漢方相談コーナーが増えている感じがします。
社会全体が、「未病」や「虚弱」を意識し始めている空気を感じます。
不調を未然に防ぐロングコースという選択肢
ウェルネスケアに従事する立場として、私はここで一つ強く思うことがあります。
健やかさは、一朝一夕では作れません。
だから本当は、“不調になってから”ではなく、“不調になる前”に始めたほうがいい。自分で身体を育てるなら、ヨガやピラティスは非常に良いと思います。
逆に、人の手を借りながら整えたいなら、全身を長時間ゆるめるタイプの施術が向いている。特にロングコースのリラクゼーション。個人的には、タイ古式120分の価値はかなり大きいと思っています。
なぜなら、私自身が、その深い脱力によって50代特有の不調感からかなり救われた経験があるからです。
この「長時間」という感覚については、実は10年ほど、かなりいろいろな受け方を試してきました。
その中で感じたのは、単純な施術回数よりも、“一回でどこまで深く身体をゆるめられるか”のほうが重要だということです。
たとえばボディケアだけでも、毎週60分を月4回受けるより、120分を月2回受けたほうが、明らかに爽快感の質が違う。さらに理想を言えば、そこに顔のケアを30分ほど加えたい。
そうすると、一般的には「90分コースを毎週」という発想になりやすいのですが、実際に体感してきた感覚では、90分を月4回受けるよりも、150分を月2回受けるほうが、私自身の体感としては、ガチガチな体が緩んだ感じを強く受け、その後もしばらく心地よさも楽々で動ける感が続きました。
……身体の軽やかさやスッキリ感も、こちらの方が適しているように感じました。これは不思議な現象です。なぜなら、単純計算なら、90分×4回で360分。それに対して、150分×2回は300分です。
つまり、総時間は少ない。にもかかわらず、身体の軽さや回復感はこちらのほうが大きい。このあたりから、“長時間で一気に深部までゆるめる価値”を強く感じるようになりました。
言い換えれば、この時間帯からようやく、タイパやコスパが逆転してくる感覚です。
しかも、調子を崩してからではなく、もっと早い段階で始めていれば、さらに大きな恩恵があっただろうとも思っています。
外出というのは、実はかなり体力を使います。
人と会う
移動する
長時間座る
会話する
それだけでも、身体には相当な負荷がかかる。だから、理想としては、小学校高学年くらいから、ある程度身体を動かす習慣があったほうがいいと思うのです。
50代から始める「ナチュラルスリム」の現実と難しさ
では、50代に差しかかってから始めればいいのか――となると、理論上は可能でも、現実にはなかなか簡単ではありません。
実は以前、私は「50代からの健やかさ維持」を目的とした施術はお受けしていましたが、美容目的に関してはお断りしていた時期がありました。
なぜなら、現場で見聞きする限り、50歳を超えてから“ナチュラルに美しい身体”を取り戻すのは、決して簡単なことではないからです。
もちろん、体重だけなら落ちることはあります。ですが実際には、「体重計の数字が減っただけ」で終わってしまうケースが非常に多い。
本当に難しいのは、“自然な引き締まり感”なのです。
50代以降でも引き締まった美しさを目指して方策を練り、自力でスマートな身体の印象を保つこと自体は不可能ではありません。
ただ、それを実現している人たちは、かなり強い意志を持っている。
継続的な努力。
食事や睡眠を含めた生活管理。
日々の積み重ね。
そうしたものを長期間維持した上で、ようやく成立していることが多いのです。
あるいは、補正下着や美容整形など、“外側からの補助”によって形を作っているケースもあります。
もちろん、それ自体を否定するつもりはありません。
ただ、私がここで言っているのは、心身の健やかさから自然に生まれる「ナチュラルスリム」の話です。
身体が軽い。
動ける。
疲れにくい。
その結果として、全身がすっきりとしたプロポーションに見える、という状態です。
ただ、ここで一つ現実的な話をすると、50代から最高峰の“ナチュラルスリム”を一気に作ろうとするのは、いくら、それまで着実に美体型を維持してきた女性でも実際にはかなり難しいと思います。
もちろん不可能ではありません。
ですが、50代から突然身体を変えようとしても、身体の順応性そのものが若い頃とは違っている。
だから、どうしても「現状維持に近い崩れで留めておく」で精いっぱいです。
実際、ヨガは“若々しさを保つ習慣”として非常に人気があり、30代前後から定期的に続けている女性も多くいます。
そして、そういった長年ヨガを継続してきた女性たちでも、50代に入る頃には、漢方を取り入れたり、ウェルネスケアを併用したりしながら身体をギリギリ維持しているケースは珍しくありません。
つまり、それだけ50代という時期は、身体変化の影響が大きいということです。
ですが、その中でも差が出るのです。
50代でやっとウェルネスケアを取り入れた女性たちの40代を60代でも維持できているかと言えば、、、。
年齢相応の女性よりは若見えするかな?という程度で、見た目での崩れがところどころ目立つのが実際のところです。
では、早い時期からウェルネスケアを取り入れてきた女性は、50歳を超えてきてどんな変化を遂げているのでしょうか?
30代からの積み重ねが生む、成熟した生命力と産後の習慣
興味深いのは、20代後半〜30代前半頃からウェルネスケアを生活の中に取り入れていた人たちです。
そういう人たちは、40代後半からヨガや運動習慣を重ねていくことで、50代に入っても単なる“維持”に留まらず、むしろ身体全体の健やかさと美しさをさらに発展させているように見えることがあります。
後から慌てて立て直すというより、長年少しずつ積み上げてきたものが、50代で差として現れてくる。

そんな印象です。
身体が止まっていない。だから同世代の中でも、比較的軽やかに動ける。そして、その差は日常生活の中で静かに現れてきます。
元気な友人についていける。
外出が苦にならない。
予定が続いても崩れにくい。
結局のところ、人間の身体は、“使わなければ省エネ化する”ようにできているのだと思います。
便利さは、人を助けます。でも同時に、身体を弱らせることもある。
だから現代人に必要なのは、「休むこと」だけではなく、“ちゃんと動ける身体を維持すること”なのかもしれません。
そして、動き回れる身体がもたらす本当の価値は、単に「疲れにくい」という話だけではありません。
それは、年齢を重ねた時に現れる、“身体全体の若々しさ”です。
特に女性の場合、それは顔だけでは隠せません。
姿勢。
歩き方。
身体の軽さ。
背中のライン。
お腹まわりの締まり方。
そして、動作そのものに宿る活力。
そういうものが全部合わさって、「あの人、若いよね」という印象になっていく。
私は30代頃から全身のウェルネスケアを継続してきた女性たちが、50代へ差しかかっていく姿を数多く見てきました。
そこで感じるのは、“若作り”とは全く違う種類の美しさです。
無理に飾っている感じがない。でも、明らかに身体が整っている。
動ける。
疲れにくい。
「巡りが良い。だから自然と、お顔の印象までパッと明るく見えるのです。」
そういう人たちを見ていると、正直なところ、
「子供を産む前より、今のほうが綺麗では?」と思うことが本当にあるのです。
もちろん、年齢そのものは戻りません。ですが、身体を長年きちんとケアしてきた人には、単なる若さとは別の、“成熟した生命力”のようなものが宿る。
それは化粧品だけでは作れないし、一時的なダイエットでも手に入らない。長年の身体との付き合い方が、そのまま表面に現れているのだと思います。
だから私は、女性にとってウェルネスケアを始める最適な時期は、実は「産後」なのではないかと思っています。
出産は、身体の構造も生活も大きく変わる出来事です。しかも、その後には育児という長い消耗戦が待っている。多くの女性が、自分のことを後回しにしながら、気力と根性で乗り切ろうとしてしまう。
ですが、その時期にこそ、本当は身体を整える習慣が必要なのだと思うのです。
産後から少しずつでも身体を整える習慣を持っていた人は、40代、50代に入った時の全身のシャープな印象や、引き締まったプロポーションをキープできるかどうかに、驚くほどの差が出てくると実感しています。
逆に、その時期を完全に自己犠牲だけで駆け抜けてしまうと、後になって一気に反動が来るケースも少なくありません。
若い頃は、多少無理しても身体が動いてしまう。
でも、女性なら誰でも一度は通る、50代前後からの体のビックイベントからは、“これまでどう身体を扱ってきたか”が、かなり正直に出てきます。
だからウェルネスケアとは、贅沢でも美容意識でもなく、人生後半をちゃんと動いて生きていくための“身体づくり”なのだと、私は思っています。
